10 狙われたツーリング

最近ちょっとした事件が続いていた。
この近所のツーリングクラブ内で次々と内輪もめが起こり、
喧嘩が多発しているのだ。
大抵は仲良く皆でツーリングに出かけた先での出来事だ。
ひどい場合には入院騒ぎになった例もある。
しかし、それが不思議なことに私の住むこの街の近辺でのみ起こっているようだ。
調査依頼を受けた私は、とあるクラブのツーリングに参加してみた。

出発の朝、全員でガソリンを入れる。
実はこの町にはガソリンスタンドは少なく、
途中ガス欠にならないように、殆どのものがここで給油を済ましていく。
ガソリンと排ガスのに臭いが充満しているはずだが、
幸いというか、風邪ひきで鼻が効かずマスクをしている私には分からない。
給油を終え、皆きれいに並んで走行していく。
走り出してどれくらい経っただろうか、
目に見えて走っているメンバーの運転が荒くなってきた。
そうかと思うといきなり、前を走っているものの前に回りこみ怒鳴りたてるものまで現れた。
私は思わず止めに入った。


気が付くと、私はベッドの上で寝かされていた。
同じく横に寝かされていたメンバーから話を聞くと・・・
彼はいきなり後ろを走るものに襲われたらしい。
どうも、後ろを走っていた者達がいきなり前を走るものたちに襲いかかったようだ。
排気音が気に触ったのか?
それともムチャな運転があったか?
いや、私は最後を走っていたがそんな感じはなかった・・・・
なぜだ?
幸い軽い脳しんとうで、直ぐに退院できた私はそれまでの事件を追跡調査してみた。
すると、意外というか、やっぱりというか、
いずれの場合も、後ろを走るものが、前のものを襲っている。
やはりここに何か謎を解く鍵があるはず。
前から後ろへ流れるもの・・・・・
ん?!
排ガス!?

すぐさま私はあの時のメンバーのバイクを調べてみた、
すると驚くべき事実が判明した。
排ガスに含まれる成分を分析してみると、
一種の興奮剤が検出されたのだ!
これを摂取した者は、過度に興奮しやすく、又怒りやすく凶暴になるそうだ。
なるほど、そういうわけか・・・
犯人はそれぞれのバイクの燃料にあらかじめこの薬品を混入していたのだ!
では、あと残る問題は・・
「いつ誰がそれを混入したか?」
その答えは簡単だ!
例のガソリンスタンドの店主に違いない!。
ツーリング前の給油の際に混入していたんだろう。
私はすぐさま、スタンドに向かった。

店主は意外にあっさり事実を認めた。
「ああ、間違いないです。私が入れました。」

以下は彼の言葉

しかし、あんなに効果が凄いとは思いもしませんでしたよ。
でもまあ、いいでしょう?
おかげで、連中の数が減りこの街も静かになったことだし、
え?それが理由かって?
いえいえ、
そんなことではいんですよ。
だって奴等は五月蝿いでしょ?
入れる量も、高々5リットル程度のくせして、
やれ、こぼすなだとか、
やれ、ふちに当てるなだとか、
待ってる間も空ぶかしをしたりして、
いつも苦情は私のところですよ。
挙句の果てに、給油をしない連中がかってにトイレを使い出す、
当然汚したまんま、礼すらいわない。
もう毎回々腹が立って、腹が立って。
だからね、この薬を知った時は嬉しかったですよ!
なぜって?
教えましょうか、
私は奴等が互いに仲間内ではルールを守り、
信頼しあって生きていることに気がつき、そこに目をつけたのですよ!
やつらをを壊滅させるのに暴力をふるう必要はない。
仲間同士の信頼感をなくせばよい。
奴等は互いに敵視し傷つけあい、やがて自滅していく。どうだ、いい考えでしょう?

事件はこうして終結しました。
メンバー同士の信頼感を利用するとは恐るべき方法です。
でもご安心下さい、このお話は遠い遠いどこかの物語なのです…。
え、何故ですって?
…我々(火曜日メンバー)は今、このような隙を狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから…


ご存じ、ウルトラセブン「狙われた街」のパロディです。
でも、今回の話の中でスタンド店主の言っていることは、
大なり小なり心当たりはあります。
立場が変われば、受取り方も変わります、
私たちも一度、離れたところから自分自身の行いを見るほうが良いでしょうね。




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