鍵(第3章)
もう何日たったのだろうか?
いや、分かってはいる、
あれからまだ1日半しかたっていない。
しかしながら、もう随分ここにいる気がする。
理由はわかっている。
絶え間ない緊張。
背後に重くのしかかる恐怖という名のプレッシャー。
こうして考えを巡らせている間にも、
扉の向こうでは、あの嫌な音が聞える。
重い肉の塊を引きずるような、重苦しい鈍い物音。
それが不規則ながら、絶え間なく聞えてくる。
確か、ここは学校であった。
変わった校風で知られており、その入学資格はただ一つ。
「一芸において、秀でていること。」
つまり特殊な才能があれば、いわゆる学力、体力は問われなかった。
(勿論、その個人々の性格、思想、信条、宗教なども一切不問であった。)
さらにその考えは教師にも適用されていた。
したがって、校内の雰囲気は異様であり、「調和」という言葉からは一番遠いところになっていた。
その環境を思うと、今のこの状態はある意味予想されるべき状態であったとも言える。
ああ、また嫌な音が聞える。
例の音に続き、甲高い人間の悲鳴と重く何かが崩れる音。
私はもう既に悲鳴を「音」としてしか捉えられなくなっていた。
(へ〜、あんな時は男も女も同じような音を出すんだな…)
他人事のようにぼんやり考えながら息を凝らす。
こんな場面は、かって経験したことがある。
とはいっても、あれはゲームの中でのこと。
「バイオハザード」
私が一時期のめり込んだゲーム。
しかし、今現実に私の身に降りかかってきている。
「こんな時、武器があればなあ…」
私が知りうる限りの現在の状況はこうだ。
今年の転入生に、生物化学の天才がやってきた。
(いや、思えば天災か?)
ガキのような性格の担当教師がそれと張り合った。
研究題材は「生物(細菌)兵器」。
勝負の行方は危険な方向を向いていった。
数日前に、どちらかキレた方がいきなり実力行使に出た。
(これは生徒だとも教師だとも言われているが、今となっては意味のないことだ。)
「バイオハザード」
あれは現実に起こりうることだったのか?
細菌に犯されたほかの生徒や教師は、取り付かれたかの様に殺戮を始めた。
幸いなことに(だろうか?)、この細菌は接触性の伝染形態であり。
傷口からの細菌進入を防げば、犯されることはない。
つまり、
感染者とかち合わなければ何とかなる!
しかし、それとて確かな情報ではない。
なんせ殺戮が始まってからは、正確な情報など入手しようも無く、
今述べたことも、又聞きに過ぎない。
そう、始めは多くの者たちが無事であった。
しかし、次々に被害に倒れ、それらが次々に加害者となっていった。
(私に先のような話をしてくれたものも、今はどこにいるのか…)
学校中が恐怖に支配されるには1日あれば十分だった。
多くの者が倒れる中、
なぜ私がこうして無事でいられるか?
それは私の特技のおかげだ。
私は、逃げ足が速いわけでも、腕っ節が強いわけでもない。
ただ、その存在を消すことができるのだ。
分かりやすくいうと、呼吸を止め、気配を絶つことができるのだ。
私が本気になれば心臓さえも止められるような気がする。
(自慢ではないがかくれんぼなどではいつも最後まで見付からなかった。)
だから、隠れ通すことが出来たのだ。
そういうわけで、奴等の目を盗んでは安全な部屋を渡り歩いていたのだ。
しかし、困ったことが起きた。
やつらの中の一人が執拗にあとをつけてくるのだ!
数時間前、そいつの姿をチラッと見て私は恐怖した!
奴は「誰でも見つける才能」をもったあいつではないか!?
例の細菌に犯されると、知能と敏捷性は失われるが、特殊な才能はそのままのようだ!
(ちなみに、凶暴性と腕力は驚くほど強化されてしまう!)
こうなると、もう安心などしていられない、
あの「追跡者」に見付かる前に、一刻も早くこの学校を抜け出さなければ!
しかし、困ったことにこの建物は、ありとあらゆるところがロックされている。
私がこうして隠れているところも、たまたま鍵がかかっていなかっただけの部屋である。
隠れる以外能のない私は、簡単な南京錠も開けられない!
しかし、これはやつらにも言える事、
知能の低下したやつらには、鍵を開けることは出来ない。
「ここさえ、この建物さえ抜け出せれば…」
そのとき私の脳裏にある考えが浮かび、私は戦慄した。
「もし、鍵を開ける能力を持った者がやつらの中にいたら?」
私は結局動き出すことが出来ずに、ひざをかかえうずくまっていた。
「!」
そのとき扉が動いた!
しかも、乱暴にこじ開けようとするのではなく、慎重に鍵をいじっているようだ…
扉のサムターンがゆっくりと回転した。
私は全力で気配を絶った。
「やった!まだ生きていれる!」
扉の向こう側から現れたのは、感染していない人間(女)であった!
彼女はまだこっちには気付いていない!
そこで、私から声を掛けてみた。
「もしもし…」
「!…」
彼女は大声を上げて驚きそうだったので、私は彼女の口を手でふさいだ。
もし大声でも出されたら、すぐに見付かってしまう!
その瞬間私の両手の指先に激痛が走った!
驚いた彼女が噛み付いてきたのだ。
私は必死で痛みをこらえ、悲鳴を押し殺した。
(やばい!骨まできてるぞ!)
私は沸き立つ怒りを押えこみながら、彼女の顔を覗き込んだ。
驚き怯える彼女と、目で会話をする。
しばし固まった後、彼女は大きくうなずいた。
事態が飲み込めたようだ…
「誰もいないと思って…、それでいきなり声を掛けられたから…」
彼女が小声で話始めた。
「きっとあいつらだと思って…で、恐くて、思いっきり噛み付いて…、ごめんね、大丈夫?」
私は許すしかなかった。
仕方がない、誰だって、多分私だって同じ行動に出ただろう。
ただ困ったことに、両手の指先がいかれてしまったようだ。
少し動かすだけでも激痛が走る。
「ところで…」
私は痛みをこらえ彼女に尋ねた。
「どうやって生き延びることができたんだ?」
「なるほど…」
彼女がなぜ生き延びていられたか、私は彼女の話を聞いて納得できた。
彼女の能力は「開錠」つまり、どんな鍵でも開けることができるのだ!
そして、その能力で次々とかぎを開け、安全な場所へ移動していたのだ。
(何たる幸運!彼女とならこの学校を抜けだせる!)
私の両手の指は無駄にはならなかった!
その後私は彼女と行動を共にした。
さて、どのくらい逃げ回っただろうか?
だが確実に出口に近付いてきている、後もう少しだ!
しかし、なんということか!
奴が!
追跡者がついに気付いてしまった!
私一人なら何とかなるが、鍵開けの彼女がいっしょだとどうしても気付かれる。
かといって、彼女なしでは扉は開かない!
背後から聞えてくる。
でも、もはや悲鳴は聞えない。
ほとんどの者が感染し、聞えてくるのはあの重くて嫌な音。
追跡者を先頭に、感染したやつらが後を追ってくる!
「急いでくれ!」
私は彼女に向かって叫ぶ!
「もうちょっと待って!これはちょっと手ごわいの!」
もう少し、もう少しで脱出できる!
あとはこの扉を開けさえすれば!
でも、安心もしている。
それは、奴等には鍵は開けられないってこと。
落ち着いて、落ち着いてさえいれば…
「!」
あれ?どうしたことだ!
一つ向こうの部屋までやつらが来ている!
扉が開いていってるんじゃあないか!?
鍵は?鍵はかかってないのか?
なぜだ!?
私は叫んだ。
「鍵はかけていないのか?」
彼女は言った。
「うん。あなた閉めてよ!」
(なにをバカなことを!この指では無理だ!)
「無理だ!開錠よりも先に、後方の扉の鍵を掛けてくれ!」
「だめ!無理なの!」
「え?!無理ぃ!?なぜぇ?!」
「だって、鍵を開けるのは得意だけれども…」
「ども?」
「閉めることは出来ないの!」
そうだった…
、
ここの生徒は一芸に秀でているから…
<(T∇T)>「その他の事は何にも出来なかったんだ…」
ご存知の方も多いと思いますが、私は「バイオハザード」が大好き! 正直、テレビゲームにはあまり関心のないこの私が、 唯一いつまでもプレイしつづけるのがこのゲーム! もちろん、他のゲームもしてみましたが、 どれもこれも途中で飽きてしまい、のめりこめない。 一通りやってみて気がついた。 私はこのゲームが好きなのではなく、「ゲームの設定の世界観」が好きなのだ! そう、だから好きな小説の続編を読むような気持ちで、新作をプレイし、 操作するキャラクターにも感情移入をしているのです。 そう、ここがすべての基本でしょうね。 いかに「感情移入」ができるかどうか! これが何事においても、ハマるための絶対条件でしょうね。 テレビゲームなんて、極論すれば、ただの数値のパラメーターを競い合っているだけの事。 しかし、そこに感情が入り込むと・・・・・ 登場するキャラはイキイキと動き出し、気がつけば自分自身もそこにいる! そしてドラマは大きなうねりとなり、すべてを巻き込んでゆく。 こう考えると、すべての趣味はそうかもしれない。 切手、バイク、プラモ、etc・・・・・ その対象物の背景に、ドラマを感じてしまったらば! それはハマるということ。 きっと、抜け出すことはできないでしょうね!(゜▽゜)b |