お正月企画!
(テレビに飽きたら読んでね)


しょうじ君のキューピッド

「うん?なんだ?」
朝の光の中、しょうじ君は目を覚ました。
本来夜型の彼がこんなに早く目覚めたのも珍しい。
実は、今朝は不思議なことがあったのだ。
それは…

いつものように気持ちよく寝ているしょうじ君の耳に、いきなり聞きなれない声が届いてきたのだ。
不思議に思い飛び起きると…
「あれ?聴こえない…」
さては夢かともう一度布団に入ると…
「!?」
なんとやっぱり聞こえてくるではないか!?
「幽霊…?」
よく耳を澄まして聞いていると…
「若い女性の声だ!」
しかもどうも英語で歌っているようだ…
(まあ、若い女性ならば幽霊でもいいか…)
そう、しょうじ君は只今一人身だったのだ。

それから暫くして色々なことが分かった。
あの声が聞こえるのは、おかしなことに目覚めるあの時だけ、
しかも、大抵は英語なのだが、たまに日本語も聞こえてくる。
その上聞こえてくる場所も、しょうじ君が寝ている枕もとだけで、
起き上がると声は消える。
そのことが分かった頃には、もうしょうじ君はあの声を楽しみにするようになってた。
なんたって、部屋の中に若い女性の声がするのだから、
(例えそれが幽霊でっても)
考え様によっては素敵なことじゃあないか!

ある日のことしょうじ君が珍しく昼間に散歩をしていると…
「!おや?これは!」
聞きなれたあの歌声が聞こえてくるではないか!?
しょうじ君は急いで声の方向へ走った、
するとそこには若い女性が、金髪の女性が自転車を洗っている姿があった。
しょうじ君は思わず声をかけた。
「は・はろ〜?」

彼女はアメリカからの留学生で、名前はメアリーといった。
今は拾った自転車を綺麗にしているとこらしい。
その自転車の後ろにある彼女のアパートに目をやると、
今ではもう見ることも少なくなった、古いタイプのアパートで、
「○○荘」という呼び名がいかにもピッタリする、古びたものだった。
(もっともしょうじ君の下宿先も、同様に渋めのものだったが…)
彼女の話では、どうしても日本で学びたいことがあり、
単身アメリカを飛び出してきたそうな。
当然お金がたっぷりあるはずもなく…
アルバイトに追われる毎日で、
これでは「留学」しに来たのか、「働き」に着たのかわからない!
そう言って笑っていた。
道理で留学生とはいっても、決して裕福な感じはせず、
どちらかというと出稼ぎのような雰囲気がしているなあ。
しょうじ君は話をしながらそう思い、親しみを感じた。

もともと、自転車やバイクいじりが好きなしょうじ君であったので、
いつの間にか、彼女の自転車を綺麗にするのを手伝っていた。

「う〜ん、このままで乗れんこともないけど…」
「モ?」
「もうちょっときちんと整備した方がええな。」
「ソウ?」
「よし!暫く通って手伝ったげるよ!」
「サンキュー!」
こうしてしょうじ君は彼女の自転車を整備するために暫く通うこととなった。
(もちろん、それだけが理由ではないことはいうまでもない!)

しょうじ君は部屋に戻り、窓の外を見た。
丁度そこからは、先ほどのアパートが見えた。
「どこの部屋かな?」
しょうじ君はすべての部屋の明かりが消えるまで、じっと見ていた。

自転車が綺麗になってゆく度に、しょうじ君と彼女の距離も近付いていった。
そして当然の成り行きで2人は付き合い始めた。

ある日、しょうじ君は彼女にある話を打ち明けた。

「実はな、メアリー」
「ナニ?」
「初めてあった時な、歌を歌ってたやろ?」
「ウタ?」
しょうじ君は毎朝聴こえるあの歌のメロディを口ずさんだ。
「オー!ソレ シッテマス! ワタシ イツモ ウタッテマス!」
「やっぱり!」
「ソレガ ドウカシタノ?」
「実はな、毎朝聴こえるんや。」
「マイアサ?」
「そう、いつも。」
「私 ウタッテルヨ マイアサ」
「え?」
「ウン」
「不思議やな〜」
「フシギダネ〜」

ちょっとしてからメアリーがこう言った。

「ジャア アレダネ!」
「あれ?」
「キューピッド ヨ!」
「キューピッド?」
「ソウ ワタシト ショージ ヲクッツケテクレタ キューピッドネ!」

そう言い切って、ケラケラ笑う彼女の顔を見つめながらしょうじ君は思った。
「そうか、うん、そうに違いない!」

やがて季節は秋に変わり、肌寒い風が吹き始めた頃。
しかし、相変わらず2人はアツアツだった。

今日の2人のデートの先は「科学館」
(安くて、近くて、暖かかったから)
そこには不思議なものがたくさんあって、2人は夢中になって遊んだ。
中でも2人がおもしろがったのが、「パラボラアンテナ」
大きな半球上のアンテナに向かって小声で話すと、
驚くことに、遠く離れたある一点でのみその声が聞こえるのだ。
(理論的には、小さな声をアンテナが拾い集め、その後ある一点に集中して反射させているのです。)
周りの雑踏をよそに2人は、ヒソヒソ話を楽しんだ。
っと、その時急にしょうじ君はあることを思いついた!
「そうか!そうだったのか!」
しょうじ君は彼女の腕をつかんで科学館を後にした。
彼が向かったのは、彼女のアパート。
急いで靴を脱ぎ部屋に入ったしょうじ君。
彼女は頭の中が「????」
しょうじ君は窓の反対側の壁を見つめている。
「ショージ ナニヲ シテイルノ?」
「分かった!分かったよ!あの不思議な歌声の原因が!」
「???」

しょうじ君は彼女の部屋の壁を指差して言った。
「ほら!へこんでる!」
見ると、壁全体が大きく歪んでしまい、丁度先ほど見たパラボラアンテナのような格好になっている。
しょうじ君はメアリーにことの次第を説明しました。
「僕の部屋の壁も古くてこのように歪んでいるねん!」
「オー!ショージモ!?」
「恐らくこの壁の歪みが、さっきのパラボラアンテナ役割を果たして、ここの歌声を拾い集めて…」
「テ?」
「僕の壁に反射させ、その反射を僕の壁が僕の寝ている耳元に集めていたんや!」
「ソウナノ?ジャア ワタシノ ヘヤノカベは オオキナ オクチネ!」
「じゃあ、僕の部屋の壁はさしずめ大きな耳か!」
「OH!ソレナラ ヤッパリ ショージはワタシト デアウ ウンメイダッタノヨ!」
「え?なんで?」
「ダッテ、ホラ ニホンノコトワザデ イウデショ?」
「あ〜?あああ〜っぁぁあ〜!」

2人は声を揃えて言った。

「壁に耳あり…、ショージにメアリー!」


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