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〜流行りの首輪〜


「最近の飼い主は、どうも犬に振り回されているなぁ…」

愛犬ジョイの散歩の途中、いつもの公園のベンチで一服しながらそう独り言をつぶやいた。

というのも、最近この公園を含め近所で見かける犬連れの人々は、

なんというか、犬の好き放題にさせていて、どうもきっちりしつけが出来ていない。

そういう人たちが、最近やたら目に付くから、つい思わずつぶやいてしまったのです。


そうそう、そういえば…

不思議なことにそういう人たちは皆おそろいの首輪とリード(ひも)を持っている。

流行のブランドなのだろうか?

やっぱ、あれかな、

すぐ流行に飛びつくような人は、あまり真剣に考えず勢いで犬を飼い始めるんかな?

そう考えてるうちについまた独り言で、

「あれでは犬に操られているみたいなもんやん。」

とつぶやいてしまった。

すると不意に後ろから声が…

「分かります?」

驚いて振り向くと、そこには近所の男性の姿が、

(確か彼は以前は犬好きだったのに、最緊急に犬嫌いになったな…)

そう思っていると、彼はさらに続けて、


「あなたも気づきましたか?」

「え?なにがですか?」

「ほら、今言っておられたではないですか。」

「え?え?」

「犬に操られていると。」

「はぁ…」

「これには理由があるのですよ。」

「理由?」

「実はね…。」

「ええ〜!?」



彼の話はとんでもなくて、なんと言うか荒唐無稽!

ま、かいつまんで言うと、

あそこらにいる犬達は実はものすごく知能が高くて、

ある手段で人間を操っているとのこと。

そして驚くことにその方法とは、あのおそろいの首輪とリード!

実はあれこそが犬達が作った恐るべき装置で、

それを通じて持ち手の人間の意志を自在に操れることができるのだとか。

だからおそ、最近犬に振り回されている人々は、

皆おそろいのあの首輪とリードなのだとか。




そしてある日そのことに気づいてからというもの、

犬が怖くなって、避けるようになったのだとか…

彼はひそひそ声でそう一気にまくし立てていましたが、

小さく可愛い犬が近寄ってきたとたん、

「うひ!こっち来るな〜!」

そういいながら一目散に逃げていってしまいました。

で、私はしばし呆然としながら、

チョコチョコと彼の後をついて行くその小さな犬を見送ったのちに、

「なんか変なおっさんやったなぁ。

そう、ジョイに声をかけ家路につきました。

帰り道、ジョイはやたらとあちこちの電柱を嗅ぎ嗅ぎ歩いておりました。




家に戻ると、玄関口に荷物?

「これはなに?」

「あ、それは評判ええらしいから取り寄せたの。」

妻がそういうので、なんだろうと開けてみると、そこには例の首輪とリード。

「えっ…!?」

先ほどの彼の話を信じてたわけじゃないけれど、

なんとなく気持ちが悪いので、それはそのまままた箱に入れました。

翌日またいつものように公園に行くと、

「やあ、こんにちは!」

またもや不意に声を掛けられ振り向くと、そこには昨日の彼の姿。

しかも、昨日のあの小さい犬を連れております。

「え?あれ・あなた、犬!え?!」

私が言葉に詰まっていると、

「いや〜、こいつ昨日家までついてきちゃって。

 ははは、なつかれると可愛くてたまらんですね♪」

昨日とまるでトーンの違う話しかたの彼の姿に驚きながらよくみると…

(あっ!やっぱりあの首輪とリード!)

急に怖くなった私は、すぐさまそこを離れたくなり

「あ、そろそろ帰らないと…」

すると、

「まだいいじゃないですか、ほらわんちゃんたちもとても気が合ったみたいだし。」

みると、あの小さな犬とジョイが鼻先をつき合わせて仲良く、くんくん。

そう、まるで話し込むかのように…

その後あわてて家に戻ると、家の中はなにやらいつもと違う雰囲気。

犬が自由に走り回り大騒ぎ。

そして、普段は犬の食事に厳しい妻が人間用の食べ物をどんどん与えている。

そして、犬達を見てみると…

例のあの首輪!




でも、こういう出来事は実はほんの些細なことだったのですよ。

そう、今のこの国の状態から見れば!

いまや国政を左右する国会議員や大臣、そして各財界のトップは皆、

どこに行くにも思い思いの愛犬を従えて!

無論首輪とリードは見慣れたあれ。

そして街の様子もがらっと変わって、

気がつけば、道という道に新しく電信柱が建てられ、

路面も裸足でも気持ちのいい土の道に再舗装!

街中には必ず1ブロックごとに芝生のきれいな公園が!

そして、誰もが皆早起きして早朝からテクテク散歩♪

交通事故の元になる自動車は廃止され、移動は皆犬を連れて自転車で。

おかげで国としての生産性はぐんと下がってしまいましたが、

人々は皆健康になり、すみよい社会になりました。




ですが、外国から来た人々は以前とのその変わり様がよっぽど不思議に映るのか

いまのこの国の姿を見て、皆一様にこういうのでした。


「なんと、不思議で素晴らしい!」

そう…

ワンだぁ〜!&ワンだフル!」(・∀・)



お後がよろしいようで♪


さて、このお話はこれでおしまいですが、

皆さんはこれを架空のお話だとお思いでしょう?

でも実はわが国が大きく変わったあの時期に、

実は密かにこういう出来事があったというのですよ…

それが証拠に。

今度確認してみてください。

あそこのほら、あれを!

ほら!


超有名なあの偉人の姿を!

ね♪上野の西郷さん♪

あの首輪とリードもよく見れば…?

▼^ェ^▼「ワンだ〜♪」



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